Web3.0ってなんだったんですかね
昨年(2022年)の11月に、OpenAI社がChatGPTを一般公開した。
いわゆる生成AIの一種であるGPT-3の大規模言語モデル(LLM)によって構築されており、ユーザは会話形式でAIに命令を出すことができる。
例えば、「適当な会社名10個作って」とかいうと、それっぽい会社名を10個羅列してくれる。
ChatGPTの反響が凄まじかったことは、私が述べるまでもないだろう。
アクティブユーザー数が1億人に到達するまでにかかった期間は二ヶ月。
TikTok、Instagramの九ヶ月、二年半と比べると異常さが分かる。
おかげで、Twitterなどに跋扈する「情報商材屋」は一挙に「ChatGPTのすゝめ」をツイートし、挙句プロモーションするようになった。
スプレッドシートとChatGPTを連携させました! とか。
これに乗り遅れると新時代の人材になれません! とか。
なんだよ新時代って。
「ONE PIECE FILM RED」じゃないんだから。
まあ、情報商材屋って『ONE PIECE』とか好きそうですからね。
閑話休題。
私はここで何も、ChatGPTについて語りたいわけではない。
便利な使い方とか、その是非とかについて述べたいわけではない。
そのような記事なら世に腐るほど出ている。
私がここで触れたいのは、このブームの陰ですっかり忘れ去られたものについてだ。
つまり、一挙に《辺境》へと追いやられた哀しきものへの挽歌こそが、私の書きたいことなのだ。
みなさん、Web3.0って覚えていますか?
Web3.0は、明らかにバズワードとなっていた。
ChatGPTは少なくともOpenAI社のサービスを名指していると断定できるのに対し、Web3.0は使用者によってその言葉の射程が大きく異なっていた。
それは明らかに、自分にとって都合の良いWeb3.0を掲げ、自分のもたらす情報に価値があることを仄めかそうとしていたからだった。
なお、経済産業省は、Web3.0を次のように定義している。
Web3.0とは、『ブロックチェーン上で、暗号資産等のトークンを媒体として「価値の共創・保有・交換」を行う経済」(トークン経済)
(経済産業省ホームページ より)
このWeb3.0もといWeb3は、もともとイーサリアム(Ethereum)の共同設立者であるギャビン・ウッドにより作られた用語だった。
しかし、ギャビン・ウッドがどのようにこれを提唱したのか、という元ソースの記事が見つからないため、Web3で目指されていた世界がどのようなものなのかを、いつかのサイトを見た上で要約し、ここに記そうと思う。
Web3とは、従来の中央集権型でなく、分散型で構築されるWebシステムのことだ。
そしてこれは一般的に、ティム・オライリーの提唱したWeb2.0、およびその比較対象としてのWeb1.0からの発展系として記述されることが多い。
歴史は発展的に進化する——進歩史観である。
Web1.0では、情報発信者が限られており、多くのユーザーは情報を読む(Read)だけだった。
Web2.0では、多くのユーザーが同時にブログやSNSを通じて情報発信者にもなった(Read & Write)。ただしこれにより、多くの個人データがBig Techのような少数のプラットフォーマーに独占される状況が生まれた。
対してWeb3.0では、情報などの所有権もユーザーに帰するようにしよう(Read, Write & Own)というのがその思想である。
そしてその技術基盤にブロックチェーンがある。
だが、この技術はいまだ過渡期にある。
技術者の数が少ないし、この思想がどこまで実現されるのかも不透明だ。
例えば「見かけほど分散していない」という指摘があるのもその証左の一つだ。
では、このような状態でなぜあんなにも多くの人が情報発信に熱狂したのか。
それは「金儲けできる」というストーリーを描きやすかったからだ。
2021年TwitterとSquareの創業者であるジャック・ドーシーが、自身の最初のツイートを表したNFTを250万ドル以上で売却した。
この辺りから、「あれ? NFTってめちゃくちゃ金になるのでは?」という空気ができ始める。
そして、2021年、日本の小学生(Zombie Zoo Keeper)が夏休みの自由研究としてNFTアートをNFTの大手取引所であるOpenSeaに上げたところ、べらぼうな値がつき、朝夕の情報番組で取り上げられることとなった。
これにより、Web業界やIT業界にいる人以外にも、NFTというものがなんか儲かるかもしれないらしい、という情報がインプットされた。
そして日本でも2021年から2022年にかけて、Adam byGMOや楽天NFT、LINE NFTといったNFT取引所が続々とローンチされた。
以降は、Twitterやルノアールなどで見たり聞いたりしたことがある通りだと思われる。
「NFTに投機しましょう」
「NFTは複製ができません!」
「NFTはアート自体を保有できます!」
みたいなことが喧伝され、「このツイートうさんくさいな」という感じになっていった。
上述の「所有」(Own)の思想と切り離され、Web3.0はメタバースだ! みたいに言われたこともこれに拍車をかけたし、なんならMeta社(旧Facebook)がメタバースの開発に力を入れると言ったことも、結局プラットフォーマーがいるじゃないか、として上述の「分散していない」という批判の説得力を強化した。
かくして、Web3.0は「なんかうさんくさいもの」としての地位をほしいままとした。
Stable Diffusionなどの画像生成AIが2022年の上半期に上半期に発表されると、情報商材屋はすぐそちらに飛びついた。
彼らにとって大事なのは「情報」の鮮度だからだ。
彼らは、話題となったワードに、ハゲタカのように集り、犇めき合う。
また、NFTの情報で儲けるのに限界を感じてもいたのだろう。
私が思うに、NFTビジネスの参入障壁は、(画像)生成AIに対して高過ぎたのだ。
「情報商材」の肝要なところは、この情報を買えば、自分でも簡単に儲けられる、と錯覚させることだ。
しかし、NFTビジネスにおいて儲けるのは、
- OpenSeaなどにNFTをMintする(出品する)こと
- 人気のあるNFTを購入して転売する(二次流通させる)こと
のいずれかが必要である。
しかし、一つ目は、やはりハードルが高い。
まずMetamaskをインストールして、Walletを作成して、Mintに必要なGas(手数料)のための暗号資産を保持して——と、少しばかり手間がかかる。
それに、そこまでしても、MintしたNFTが売れるとは限らない。
また、二つ目で儲けることも、一つ目に比べれば少しだけマシだがハードルが高い。
日本の取引所であれば、日本円での取引に対応しているところもあるから、暗号資産を持っている必要は必ずしもない。
しかし、国内の取引所はNFTの市場としては育ちきっていないのが現状である。
だから、転売によって十分に儲けられるほどのポテンシャルがそこにはない——よしんば売り抜けたとしても「お小遣い」稼ぎが関の山である。——のだ。
また、その中でもたまに売れる魅力的なNFTがあったとしても、それにはすでに高値が付けられている場合がほとんどである。
そうなると、それはとても「簡単」とは言えない。
もちろん、取引の多い海外のOpenSeaなどで取引所を使うという選択肢もあろう。
しかしそうすると、やはり暗号資産にまつわる手間を避けられない。
対して、生成AIのハードルの低さは凄まじい。
なぜなら自然言語で指示を出せば、AIがレスポンスをくれるのである。
そしてこれが生むもう一つの効果は「楽しさ」だ。
生成される画像が金になるかどうかは分からない。
しかし、分かりやすく「変化」が楽しめるさまは楽しいし、やりがいがある。
だから、「情報商材屋」の毒牙にかからずとも、生成AIには多くの人が飛びついた。
それは、HTMLを学習している際に、Hello, world! の文字の色を変えられたときのワクワクに似ていた。
そして、多くの人が触る本当の「ブーム」になったことは、情報商材屋にとっては願ってもない状況だった。
「気づいている人はもう動き出している」「いま始めないと乗り遅れる」というトークに、これ以上説得力を与えてくれるものはないからだ。
かくして皆が画像生成AIに熱中しているさなか、とうとうChatGPTがリリースされた。
Web3.0の夢は、道半ばである。
ビットコインに代表される暗号資産(暗号通貨)も、NFT取引も、その一部でしかない。
その先には、低コストで金融サービスを提供する分散型金融(DeFi)や分散型自立組織(DAO)の台頭などが待っているとされている。
また、グローバルなデータ共有基盤の創出だったり、サイバー空間とフィジカル空間が一体化したSociety5.0の基盤としてブロックチェーンは注目されている。
しかし、その将来像があまり共有されないまま、Web3.0はバズワードとして消費されてしまった。
こうしてまとめて見て思うのは、「あの時期やたら喧伝された『Web3.0』ってなんだったんですかね」ということだ。
その感覚は、「ハンドスピナーってなんだったんですかね」にちょっと似ている。
ブロックチェーンを使うことで、社会がちょっとでも良くなるのなら、ぜひそのようになってもらいたい。
そしてその道筋が、あのハゲタカどもによって潰えたのなら、やはりやつらは塵芥である。
そんなことを、少しだけブロックチェーンを齧って、あんまりよく分からなかった、オツムの足りない私は思うのだ。
Solidityでなんか書いたけど、全然うまく動いてくれず泣き腫らしたあの日の私にかけて、私は祈るのだ。
【参考URL】
ブロックチェーンとは?ブロックチェーン技術の仕組みや種類、ビジネス分野における活用事例などをわかりやすく解説
【NFT家族】母親のアートが13億円以上の取引総額になった理由。きっかけは9歳の長男だった | Business Insider Japan
* UnsplashのShubham Dhageが撮影した写真